「いったいどういうことだ!?」
葬儀のなかで、奥様を亡くしたばかりの喪主に親戚の男が怒鳴りつけました。
「なぜ何も知らせなかった!?」
喪主である男性は、奥様が8年前から病気であることを、家族以外に誰にも知らせていませんでした。
もちろん親戚にも。
そして突然の訃報を聞いた親戚や友人が驚き、
やりようのない怒りを夫である喪主にぶつけたのです。
喪主は私がいたりませんでしたと、ただひたすら謝っていました。
口下手だったことも相まって、
回りの親戚は信じられないといった顔で、さらに怒りをあらわにします。
葬儀のあと、初七日の喪主の挨拶で、
彼は100人近くの前で、さらに謝りました。
社会人として責任のない態度だったこと。
友人や親戚に迷惑をかけてしまったこと。
何の含みもなくしっかりと。
そして妻との約束についてぽつりぽつりと語り始めました。
8年前、病気の診察を医師からうけたとき、
あと5-6年の寿命であることを夫婦で聞いたこと。
そして妻は夫に絶対に病気のことを口外しないようにと伝えました。
彼女は教師でした。
これを皆が知ったら、心配で代わる代わる大勢の生徒が押し寄せることがわかっていました。
彼女がほしかったのはみんなの励ましよりも、静かな夫婦の時間でした。
夫は誰にも言わずに、妻の看病を続けました。
5-6年といわれた寿命は8年に延び、夫婦でゆっくり最後の時間をすごしたそうです。
その責任として彼は葬儀で回りからどなられる事、責められる事をしっかりと受け止めていました。
そして挨拶の最後に喪主である彼は号泣していました。
会場のあちらこそらですすり泣きが聞こえます。
でも葬儀を執り行った私たち僧侶は笑顔です。
亡くなった奥さんがそこで笑顔で立っているからです。
全身ぴかぴか光って、満足げに。
私たち以外にも子供たちは笑顔でした。
誰だって本当は見えているんです。
人生を自分のやり方でやりつくすこと。
自分の人生を誰にもゆずらず、自分で責任をとること。
本当の大人の態度と、真のパートナーシップのありようこの御夫婦は見せてくださったような気がしています。
※私の体験を元にしていますが、プライバシーを守るため話の細部は変えてあります。